自然からいただく色の豊かさ、気高さ、美しさ。
そして、なんという有り難さ。
「染司よしおか」の手仕事のように、
「ゆっくりゆっくりと」心に染みてゆく映画でした。
檀ふみ
吉岡さんの工房で初めて染め物の世界と出会い
その奥行きの深さに感動させられました。
より多くの人々に是非知ってもらいたい
神秘ともいえる世界でした。
ビートたけし
人間は火も使うけれども、それ以上に水を使う生きもの、工房の映像はそんな印象にあふれています。 両手の中のベニバナのふくらみ、絞られる植物の隠しがたい香り、そういったものが眼にしか触れることのない「色」に生まれ変わる不思議。
東大寺の二月堂では毎年「修二会(お水取り)」が行われますが、仏前を飾る椿の造花は、吉岡さんの工房で染められた和紙で作られています。
二月堂内で、この世を一歩踏み越えて咲き誇る、椿の色の故郷を、映画「紫」は私たちに垣間見させてくれたような気がします。
東大寺教学執事 橋村公英
薬師寺は、三蔵法師として知られる玄奘三蔵ゆかりの寺ですが、吉岡先生には企画からご参加頂き、玄奘の求法の旅を「伎楽」として復元しております。
奈良時代と同じ伝統的染織により再現された装束は、華やかさの中に暖かみがあり自然の美しさを感じさせてくれます。
「紫」は、より四季の恵みを活かした繊細な色ゆえの日本の色を楽しませてくれます。
薬師寺 村上太胤
ムラサキ寄稿
ドキュメンタリー映画を観て涙が出たのは初めての経験だった。川瀬監督のドキュメンタリー映画『紫』を観ながら、終始、私の目からは涙が止まらなかった。
人間が泣く原因は、女性の場合悲しみが50%、喜び20%、怒りが10%だという。私は悲しんでいたのだろうか。まさか怒っていたわけではない。残りの20%の理由が一般的にどう言われているのかは分からないが、圧倒的に感動した時ではないかと思う。圧倒的な感動。恋に堕ちる時のような…圧倒的な美しさを目の当たりにしてしまった瞬間。
川瀬監督の凄さは、彼女の感性がそのまま映る映像を撮ってしまう事。彼女の魂が彼女の六感を借りて映し取る圧倒的な感動を、私達聴衆の魂までストレートに運んでしまうその神業にある。日本のアートを継ぐ染織家、吉岡幸雄の魂を真直ぐ心の鏡に映し、そのまま私達の魂に届けてしまう。私はもしかしたら、喜びで泣いたのかもしれない。あの色があまりに美しすぎて...私の魂は色彩に融合し、喜びの涙を流したのかもしれない。
Eriko Honda @Mind Creators LLC
「色」を求めて
着物好きの私の夢は、十二単を着ること。袖口や裾にいくつも色を重ねるなんて、なんて贅沢。絹物をまとったときのあの肌触りが好き。美しい色目が好き。色の名前を口に出して読むだけでも楽しい。二(ふた)藍(あい)、深支子(こきくちなし)、利休(りきゅう)鼠(ねず)、韓紅(からくれ)花(ない)に花(はな)浅葱(あさぎ)。着物をまとうと、洋服の時とは違うあたたかさを感じるのはなぜだろう。染料の植物に蓄積されたお日様の力か、多くの人の手を経てできあがったぬくもりなのか。だから、着物が好き。
そんな美しい布をまとっていた王朝人のたしなみは「時にあひたること(季節にかなうこと)」(by紫式部)であったという。春夏秋冬、着物の襲の色は決められており、少しでも季節に外れると「興ざめ」(by清少納言)と言われてしまうのだから、おそろしい。四季を二十四節気七十二候に分け、五日や六日単位で季節の移り変わりを見つめていた日本人。その五感の鋭さ、繊細さを、いまも失わないでいたいと思う。
先日、友人が「色」に関する映画を作った。京都の染色家・吉岡幸雄氏の仕事を追ったドキュメンタリーで、タイトルは「紫」(監督・撮影 川瀬美香)。
吉岡氏は自然の材料しか用いない。草木の根、葉、花、わらを焼いた灰。十世紀に編まれた『延喜式』に記された染色材料を集め、糸や布を染める。
原料となる蓼藍や紫草、紅花を育てるところから始まり、長い工程を経て、スクリーンいっぱいに、紫草の根で染めた紫の布が広がる。紅花で染めた紅い紅い布が空に舞う。思わずはっとして息を呑む。一目見て深呼吸したくなるような、心が晴れ晴れとする色。天平の色は限りなく華やかだった。
奈良時代、すでに日本では植物による染めの技術が完成していたという。「野山の花を見て、『こんな色の服が着たい』と思ったのとちがいますか」と吉岡氏は語る。自然を観察し、その恵みを十分に活かす心が、この国にはあると思う。
俳句も「観察する」ことである。目や耳や肌で感じる季節の変化を、潔く十七文字に託すこと。植物から色を得た、いにしえ人の心にも俳句の心が流れていた気がする。そう思うと、なんだか嬉しい。
自分が作り出す、ささやかな五七五の世界にも、晴れ晴れとするような、色を感じさせる句を加えられたらと思うこのごろである。
編集者 金森純子
鮮やかな色彩にすっかり覚醒してしまいました。
観終わった後も、観ている間と同じ余韻がずーっと続いて、言葉にはならない
映像がフラッシュバックされるのです。
AQUAMIST (有)フリーマム 青松瑛子
「畏怖 畏敬、昔の人を怖れ、尊敬しろ!」と。。まだこんな頑固な親父が日本にいたかと、ちょっと笑ってしまった。と、同時になんか少し安心した。
いま僕らが見たいのはこういう人なのかもなぁ
さらに、「経済的な理由だけで、自分の意にそぐわない事をするわけにはいかない」
これ以上に、この映画、この染師の生き方を表わした言葉は他にないのではないだろうか。
ミュージシャン 明星嘉男
藍、紫草、紅花、山梔子など、植物の根や花、実から、色々な染料が作られます。かつて、私たちの生活に欠くことのできない布や紙は、すべて自然の染料で染められ、描かれていました。
しかし、今では、良い染料となる植物が少なくなり、伝統を伝える技術も途絶えつつあります。化学染料や合成繊維などを大量に生産し消費する時代は、一見便利ですが、一方で、森や川、海を汚染してしまいました。
古典と自然に学び、天然染色を復元しようとする染色家と染職人の技と作品は、京都の自然や伝統、人々の営みのなかで、深くて豊かな色合いを持ち輝いています。
質のいい天然染料と確かな技は、健康な土と水、空気と切り離せないものかも知れません。
WWF ジャパン 花輪伸一